地域美術研究部会

日時
2017年5月26日(金)
場所
横須賀美術館 ワークショップ室、収蔵庫

第6回地域美術研究部会会合報告

 地域美術研究部会第6回会合は5月26日、横須賀美術館で開催された。前日に総会の開催された七里ヶ浜に続いて海を臨む会場での開催となり、海なし県からの参加者の羨望の声も聞かれた。七里ヶ浜ではサーファーたちが波を待つ姿を目にしたが、横須賀港には海上自衛隊の艦船が並んでおり、三浦半島の東西の顔を見ることができた。また横須賀美術館までの移動は、江ノ島電鉄、JR、京急、バス、タクシー、徒歩・・・と、神奈川県下の多様で複雑な交通機関を身をもって体験する得難い機会となった。
 会合は西村勇晴部会長の挨拶に始まり、横須賀 美術館の工藤香澄氏による発表「横須賀美術館と地域ゆかりのコレクション-現代作家を中心に」があった。横須賀美術館は2007年の開館であるが、その重要なきっかけの一つが1996年の朝井閑右衛門のまとまった作品寄贈であったという。その年には横須賀市在住だった匠秀夫氏の蔵書2万冊が、また1998年には谷内六郎の作品1,300点が寄贈されている。
 1998年に収集方針が決まり、翌年から基金による作品購入も開始された。2003年に美術館開設準備室ができてからは市内の施設で市の収蔵品の展示と横須賀ゆかりの現代作家の展覧会を継続して開催し、あわせて収蔵も進めてきた。収集方針は①横須賀・三浦半島にゆかりのある作家の作品、②横須賀・三浦半島を題材とした作品、③海を描いた作品、④日本の近現代美術を概観できる作品、である。画業の最盛期の20年間を横須賀に住んだ朝井閑右衛門や、大学時代まで横須賀に住んだ島田章三、島田と同世代でやはり横須賀出身の岡本健彦、さらには岡本が師事した川端実と、ゆかりのある人物のつながりからコレクションの幅が広がっていった。 
 一方、収集方針②にある横須賀を題材とした作
品については必ずしも多くが収蔵されてはいないという。横須賀はペリー来航の地を擁し、近代日本草創期のイメージの宝庫ともなりうる地であるが、にもかかわず軍港という事情から写真撮影やスケッチは長く禁じられており、横須賀が作品の主題となるのは戦後からだというのだ。
 工藤氏の発表では2013年に開催された企画展「街の記憶」が大きく紹介された。1950年代以降の横須賀を写した写真を中心とし、市民から募集した作品も含めたこの展覧会は、横須賀という場所の特異な様相を示しつつ、戦後日本の一面をもくっきりと映しだすものであった。地方美術館が所在地を主題とした作品を収蔵するという方針は、一見陳腐なもののように受取られかねないが、実はその地の本質を照らし出す重要なテーマに成り得るということを参加者一同あらためて確認したのであった。
 現在は購入予算がなく、収蔵はもっぱら寄贈によっているというが、参加者からは作家との地道な交流を通じての収蔵の充実や、幸い存続しているという図書購入費による写真集購入などを通じてコレクションを育てていくことの重要性が指摘された。また、横須賀美術館に限らず、学芸員の世代交代の進む美術館において、地域美術の研究成果を次の世代に引き継いでいく工夫がなされなくてはならないという意見があった。
 収蔵庫で実際に作品を見せていただいた後、山田諭幹事の進行で部会の今後の活動について討議を行った。前回の会合で提起された地域美術に関するアンケートについては、単に情報を収集するというよりも、回答を通じて地域美術に関する関心を喚起するものとすべきであるという意見が出た。アンケートの具体的な内容については次回部会で再度討議することとなった。
 なお、部会事務の負担が増しているため、広島県立美術館の藤崎綾氏に部会幹事に就任いただくことが提案され、了承された。
 横須賀美術館で開催中の「デンマーク・デザイン」展及び所蔵品展を観覧し、解散した。
(栃木県立美術館 杉村浩哉)

出席者:12名

部会長:西村勇晴(北九州市立美術館館長)
幹 事:山田 諭(名古屋市美術館) 
幹 事:泰井 良(静岡県立美術館)
増渕鏡子(福島県立美術館)
杉村浩哉(栃木県立美術館)
井澤英理子(山梨県立美術館)
藤崎 綾(広島県立美術館)
江川佳秀(徳島県立近代美術館)
川浪千鶴(高知県立美術館)
菅  章(大分市立美術館)
発表者
工藤香澄(横須賀美術館)
オブザーバー
前山祐司(全国美術館会議事務局・埼玉県立近代美術館)
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