地域美術研究部会

日時
2017年11月30日(木) ~2017年12月1日(金)
場所
徳島県立近代美術館、香川県立ミュージアム、高松市美術館

第7回地域美術研究部会会合報告

 地域美術研究部会の第7回会合は、11月30日に徳島県立近代美術館、12月1日に香川県立ミュージアムと高松市美術館を会場として、2日間にわたって開催された。 
 初日の徳島県立近代美術館では、西村勇晴部会長の挨拶に続いて、まず江川佳秀氏より事例報告があった。徳島県立近代美術館は1990年に開館したが、県展作家を中心とした基本構想に対して、徹底して地域の美術の歴史を掘り起こすことを決め、その中で日本や世界で活躍する作家を紹介することに取り組んできた。
 今回は特に、原鵬雲と山下菊二について詳細に報告いただいた。原鵬雲は、遣欧使節団に随行し日本で最初に西洋美術の実物を目のあたりにした絵師で、日本洋画草創期の画家の一人。詳細不明な画家であったが地道な調査の中から、ついには一点の油画を発見し収蔵するに至った。現存が確認できる唯一の油画である。また山下菊二は、アトリエに残されていた資料類、実に4トン車2台分の寄贈を一括して受け、3年間かけて整理した事例が報告された。膨大な資料には、山下の思索の過程がとどめられ、山下がたどった制作の過程を知ることができる。収蔵庫では、原鵬雲の貴重な油画と、整理された山下菊二の資料群を実見した。
 三宅克己、伊原宇三郎、山下菊二、廣島晃甫は徳島県立近代美術館が当初より資料も含めて一括して収蔵することを目指した4人の作家である。
開催中の展覧会「廣島晃甫回顧展 近代日本画のもう一つの可能性」は、そのうちの一人、廣島晃甫のこれまでの収集、調査研究成果の結実であった。開館当初、1点ほどしかなかった廣島作品は、現在では約140点を所蔵するまでになっている。同展を企画された森芳功氏より、展示室で作品を鑑賞しながら丁寧な説明を受けた。
 翌日は高松市に移動し、午前中は香川県立ミュ
ージアムにて、一柳友子氏から報告があった。香川県立ミュージアムは、香川県立歴史博物館と香川県文化会館が統合し、2008年に開館した施設で、歴史博物館と美術館の機能を合わせ持つ。美術館機能の前身となる香川県文化会館は1966年に開館し、県出身作家の収集が始まった。1981年には香川県美術品取得基金が設立され、県ゆかり、工芸、海外の3つを方針として収集が進められた。しかし現在、現状にそぐわなくなってきている特に県ゆかりの作家作品の受入現状から、収集
方針の改訂を検討中だという。主なコレクション
は、157点ある猪熊弦一郎をはじめ、藤川勇造、イサム・ノグチ、平山郁夫など国内作家の作品、次に20世紀の西洋絵画(ピカソ、ブラック、ルオーなど)、そして工芸作品である。工芸が収集方針の一つで、主なコレクションであることは同館の特徴であるが、もともと漆芸が盛んなこの地に1898年に創立した香川県工芸学校(現在の香川県立高松工芸高校)が、果たした役割の大きさについて強調された。同校は実業的な技術指導が目的だったが、卒業生には美校に進学する者も多く工芸に限らず県内外で多数の作家が活躍する大きな要因の一つになったという。藤川勇造も同校の一期生で、東京美術学校に進学している。
 午後は、高松市美術館にて、毛利直子氏から報告があった。高松市美術館は1949年に栗林公園に開館した後、1988年に現在の市内中心街に移転開館した。移転時に定められた収集方針は、①戦後日本の現代美術、②20世紀以降の世界の美術、③香川の美術である。③香川の美術の分野は工芸に絞られ、これまでに開催された香川ゆかりの作家の展覧会でも、そのほとんどは工芸関係の作家であった。次に瀬戸内国際芸術祭との連携企画として2009年より始まった「高松コンテンポラリーアート・アニュアル」、そして日本の現代美術の収蔵作家による1997年から続く個展の開催が紹介された。個展のうち3回は瀬戸内国際芸術祭に合わせて開催しており、この地域における同芸術祭の影響が伺える。また街中という美術館という立地条件から商店街との連携要請などについても報告があった。日本の現代美術は、高松市美術館の大きな柱であるが、常設展示室2では、常時「讃岐の漆芸」を企画展示するなど、工芸という分野も同館では大きな役割を担っている。実際のところ、ほかの地域で盛んな洋画や日本画よりも、漆芸を中心とする工芸がこの地域の美術の中心にあるという。参加者一同、香川県立ミュージアムの事例とともに、工芸がこの地域の特徴の一つであることを理解し、また香川県工芸学校(現在の香川県立高松工芸高校)の重要性を認識した。同校の歴史や、カリキュラムなどについてもっと知りたいとの意見が多々あり、さらなる調査研究が求められる。ちなみに前日に報告のあった廣島晃甫、そして山下菊二も同校で学んでいる。
 山田諭幹事の進行による意見交換の場では、県と市の双方が美術館を持つ場合の棲み分けの問題、四国ブロックの他の2県、高知、愛媛の事例などがトピックになったが、各館で抱える資料類の整理や保存の問題については、それぞれが模索する事例が紹介されるなかで、専門家であるアーキビストの研修が受講できないかという意見もあった。また地域美術に関するアンケートは、今回の会合で地域の特色が明らかになった美術学校や団体について、また各地にある画人伝の所在を問うてはどうかなどの意見が出た。
 最後に、来年度の会合は、富山県美術館での総会にあわせてまず北陸ブロックで開催し、続いて近畿ブロックで行うことを確認して会合を終えた。 
(和歌山県立近代美術館 奥村一郎)

出席者:20名

部会長:西村勇晴(北九州市立美術館館長)
幹 事:山田 諭(京都市美術館) 
幹 事:藤崎 綾(広島県立美術館)
奥村一郎(和歌山県立近代美術館)
廣瀬就久(岡山県立美術館)
川浪千鶴(高知県立美術館)
中谷有里(高知県立美術館)
中村麻莉(高知県立美術館)
重松知美(北九州市立美術館)
発表者:江川佳秀(徳島県立近代美術館)
    森 芳功(徳島県立近代美術館)
    一柳友子(香川県立ミュージアム)
    毛利直子(高松市美術館)
オブザーバー
瀧上 華(香川県立ミュージアム)
矢野由貴子(香川県立ミュージアム)
石田智子(高松市美術館)
尾形絵里子(高松市美術館)
橘 美貴(高松市美術館)
小川裕久(徳島市立徳島城博物館)
小林豊子(事務局)
Copyright © 2011 The Japanese Council of Art Museums All Rights Reserved.