地域美術研究部会過去の活動

日時
2018年5月18日(金)
場所
高岡市美術館 ビトークホール、収蔵庫

第8回地域美術研究部会会合報告

 地域美術研究部会第8回会合は、5月18日、高岡市美術館で開催された。
 西村勇晴部会長の挨拶に続いて、まず富山県水墨美術館の若松基氏による「《とやまの洋画史 入門》以後」と題した発表があった。若松氏が長く勤務された富山県立近代美術館(1981年開館/2016年閉館)における地域美術の紹介は、主に企画展を中心になされ、個展をはじめ、在住作家やゆかりの現代作家を数十人規模で紹介する「富山の美術」「とやま現代作家シリーズ」、通史的な内容として、富山県における日本画、洋画、彫刻の近代史をたどった「現代美術の流れ―富山」展(1990年)、そして、そこから分野を独立させて開催した「とやまの洋画史 入門編」などの取り組みがある。
 発表では、2005年開催の「とやまの洋画史 入門編」を機に進んだ研究とその後の追跡調査を踏まえた事例が紹介された。従来、富山の洋画史は大正期に始まるとされていたが、県内最初の洋画紹介と考えられる富山博覧会や、同県初の洋画団体である富山油画会など、明治期に遡る活動が確認できたという。また、明治中期に京都府画学校で田村宗立に洋画を学んだ、いわば「富山県人最初の洋画家」である田部英嘉や、交友のあった矢野倫真らの作品発見の経緯が紹介され、稀少な作品を伝える意義だけでなく、調査研究の積み重ねが作品発見に結びつく、地域美術研究の幸運な実例としても注目される報告であった。
 つづいて、高岡市美術館の瀬尾千秋氏から「高岡市美術館の歩みと地域の美術」と題した発表があった。高岡市美術館は、高岡産業博覧会のパビリオンの一つとして設けられた美術館が恒久施設として残されたのがその起こりで、1951年開館という地方美術館の先駆的存在である。現在のコレクションは約1500点で、金工や漆芸といった高岡を代表する伝統工芸をはじめ、郷土ゆかりの作品は全体の概ね8割にのぼるというが、収集方針には、ゆかりの美術品だけでなく、金属工芸や金属造形の多様な展開を示す幅広い地域の作例も含まれる。地域美術への取り組みは、市内・県内作家の回顧展や、地元の若手作家の実験的作品の紹介、1994年のリニューアル後は、開館15周年と高岡開町400年が重なった2009年に開催した「高岡美術百科」「高岡の名宝展」など、企画展を中心に実施。とくに、郷土の版画家・南桂子を取り上げる展覧会は切り口を変えて定期的に開催され、直近の2011年の個展では、他館との協働によって摺師も交えた原版の調査が実現し、発見の多い企画であったことも報告された。
 また、同じくゆかり作家の顕彰事例として、高岡市美術館の竹内唯氏から、2016年に生誕100年展を開催した彫刻家を取り上げた「村上炳人について」と題した発表があった。村上は、美術館隣の富山県立高岡工芸高等学校を卒業後、平櫛田中に師事して院展で活躍。戦後は京都に移り、二紀展などで活動している。発表では、戦争体験や、戦後に携わった法隆寺金堂の修復が制作に与えた影響などが作品とともに紹介された。発表後には、コレクション展「高岡の金工・漆芸」につづき、収蔵庫で村上炳人のブロンズ作品等を実見。それぞれ、竹内氏、並びに高岡市美術館館長の村上隆氏より解説を受けた。現在の富山県立高岡工芸高等学校(1894年、富山県工芸学校として開校)で学んで制作の道へと進んだ村上の存在や、充実した金工・漆芸のコレクションからは、加賀藩二代藩主・前田利長が開いた高岡の歴史ある工芸文化が感じられた。
 山田諭幹事の進行による意見交換会では、明治初年代という早期に開催された富山博覧会の存在や、昭和初期に行われていた裸婦の制作などについて質問があったほか、各地における画材店の研究などは作家の生の声が集まるので興味深いといった意見が出た。また、地域美術研究の「後継者問題」については、問題意識を共有している参加者も多く、改めて本部会の意義を確認した会合でもあった。
(広島県立美術館 藤崎綾)

出席者:10名

部会長:西村勇晴(北九州市立美術館館長)
幹 事:山田 諭(名古屋市美術館) 
幹 事:藤崎 綾(広島県立美術館)
奥村一郎(和歌山県立近代美術館)
山梨俊夫(国立国際美術館)
江川佳秀(徳島県立近代美術館)
発表者:若松基(富山県水墨美術館)
    瀬尾千秋(高岡市美術館)
    竹内唯(高岡市美術館)
オブザーバー:南川貴宣(全国美術館会議事務局)
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