学芸員研修会

日時
2018年3月19日 - 2018年3月20日
場所
国立新美術館
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
主催
全国美術館会議 担当:教育普及研究部会

第32回学芸員研修会

テーマ:「社会状況の多様化に美術館はどう向き合うか」
日 時:2018年3月19日(月)、20日(火)
会 場:国立新美術館
主 催:全国美術館会議 教育普及研究部会

開催趣旨

 近年、内外の社会状況の変化によって、多様な背景をもつ人々が美術館の利用者として意識されるようになりました。障がい者、子ども連れ、高齢者、日本語を母語としない人に加え、経済的理由で美術館に来られない人など潜在的利用者をも含めたさまざまな対象に向けて、美術館に何ができるのかといった議論が各地で始まっています。
 「子どもが楽しめる体験型の展示物が欲しい」「解説が難しすぎる」「キャプションの字が小さくて読めない」「日本語以外の解説が欲しい」といったニーズの変化も起こる一方で、「静かに見たい」「専門的な知識を得たい」などの声も依然としてあり、相反する環境や過ごし方を望む利用者の間で美術館は揺れています。また予算削減が続く中、インバウンド(訪日旅行客)誘致や更なる活動の拡充など、行政や管理運営者からの要請も年々増加と多様化の一途をたどっています。
 利用者の要望に対して、一つ一つ丁寧に対応していくことが理想ですが、職員の増員が望めない中では限界があります。各館で来館者サービスの一環として検討していくにしても、本質的な問題解決には至らないでしょう。また、職員それぞれの専門性や関心、雇用形態の違いなどが、建設的な議論の場を作りにくくしている可能性もあります。しかし、美術館の危機が叫ばれている今こそ、美術館の社会的役割や館運営における問題意識を学芸員同士で共有し、美術館活動の根幹に関わることとして、継続的に検討を重ねていくことが必要ではないでしょうか。
 教育普及研究部会は、日々の取り組みを見直し、社会で常識とされている考え方を点検・再考することで、美術館の活動の目的を明らかにし、それに見合った手段や方法論を注意深く検討する視点を持ち続けることに努めてきました。
 今回の学芸員研修会では、「展示」や「利用者(ユーザー)」など、すべての学芸員に関係するキーワードの下に複数の分科会を設けます。昨今の社会状況の多様化に美術館はどう向き合っていけばよいか、それぞれの専門や立場を超えて意見を交わし、問題点や解決のヒントを共有する場とします。館の規模や立地、対象となる利用者などによって求められること、具体的に実現できることに違いはあると思いますが、ディスカッションやグループワークを通して、それぞれの事情に応じた方針を導き出す助けになれば幸甚です。
 多くの皆さまに積極的にご参加いただきたく、ご案内申し上げます。

プログラム

【1日目】
 11:30~13:00 受付、「至上の印象派展」見学(希望者のみ)
 13:00~      研修会開始
          ・会長あいさつ
          ・本研修会のねらい及び諸注意(幹事)
 13:35~17:45 分科会活動(第1ラウンド)   〈会場〉
          第1分科会「展示室におけるプライオリティ」 …講堂後方
          第2分科会「キュレーションと鑑賞」     …講堂前方
          第3分科会「言葉は展示を伝えているか」   …研修室A
          第4分科会「美術を通した共生」       …研修室C
          第5分科会「美術館と地域がつながる仕組み」 …研修室B
          第6分科会「美術館の社会的役割」      …講堂前ロビー
 18:30~     懇親会(希望者のみ)

【2日目】
 10:00~12:00 中間発表会
 12:00~13:00 〈昼食休憩/会場内にて飲食〉
 13:00~15:00 分科会活動(第2ラウンド)
 15:00~15:15 〈休憩〉
 15:15~16:30 全体講演:「文明の転換点におけるミュージアムの可能性」、質疑応答
                           𠮷田憲司氏(国立民族学博物館)
 16:30~16:40 閉会挨拶 教育普及研究部会部会長 米田耕司(長崎県美術館)
 16:40~17:00 閉会、アンケートに各自記入、提出後解散

分科会テーマ/講師/キーワード(#)

1 展示室におけるプライオリティ
  展示室では、想定外の問題が生じます。その原因は、作品や展示方法の多様化に加え、来館者
 の行為や特徴、さらには災害まで、実にさまざまです。本分科会では、これまで各館が暫定的に
 対応してきた問題や、社会情勢の変化に伴い浮上してきた課題を共有し、展示室では何をどう優
 先すべきなのかを考えていきます。
  [講師]村田眞宏(豊田市美術館長/全美保存研究部会長)
  [議論におけるキーワード]
    #保全 #公開 #展示手法 #インスタレーション #レイアウト #結界 #展示器具 #監視
    #車いす #利用者 #クレーム #事故 #災害 #安心 #ユニバーサルデザイン #禁止事項
    #撮影 #自撮り棒 #マナー #著作権

2 キュレーションと鑑賞
  来館者は展示室で何をしているのでしょう。あるいは作品の「鑑賞」はどのようにして達成さ
 れるのでしょうか。それは展示のコンセプトを理解することと同義でしょうか。本分科会では、
 展覧会や展示作品と来館者の視点をめぐって、展示担当者と教育普及担当者が問題を共有するこ
 とを目指します。
  [講師]大嶋貴明(宮城県美術館学芸員)、藪前知子(東京都現代美術館学芸員)
  [議論におけるキーワード]
    #展覧会 #鑑賞者 #コンセプト #解釈 #見る #伝える/伝わる #理解 #わからない
    #表現の規制 #参加型 #体験型 #撮影 #何を見てほしいのか

3 言葉は展示を伝えているか
  展示室にあるのは作品だけではありません。作品を語るための、あるいは展示意図や制作意図
 に関する言葉もあふれています。しかしその言葉は、来館者にどのように伝わり、また受け止め
 られているのでしょうか。本分科会では作品と人をつなぐ媒体としての言葉を検証し、その可能
 性を探ります。
  [講師]岩田一成氏(聖心女子大学日本語日本文学科准教授)
  [議論におけるキーワード]
    #キャプション #解説パネル #専門用語 #音声ガイド #ギャラリートーク #フォント
    #サイン #印刷物 #分かりやすさ #対象 #多言語化 #ディスクリプション

4 美術を通した共生
  社会的包摂の取り組みや、個々の多様性を尊重できる社会を目指した動きが広がりを見せてい
 ます。美術館で働く私たちには、どのような関わり方が考えられるでしょうか。本分科会では、
 社会的弱者と間近に接してきた講師の具体的な事例を起点に、マイノリティの存在、アクセシビ
 リティや情報保障など、その議論の基盤からともに検討します。
  [講師]西原孝至氏(映画監督、TVディレクター)、和田千秋氏(美術家)
  [議論におけるキーワード]
    #外国人 #障がい者 #LGBT #マイノリティ #高齢化 #格差/貧困 #社会的包摂
    #ソーシャル・インクルージョン #排除しない #合理的配慮 #情報保障
    #アクセシビリティ #不寛容 #アウトリーチ #ユニバーサル #潜在的来館者

5 美術館が地域とつながる仕組み
  地域活性化、地域との連携など、今日の美術館には「地域」に関わる複雑かつ多様な課題が投
 げかけられています。それに対して美術館は何ができるのでしょうか。本分科会では、地域をめ
 ぐる課題や活動の事例を持ち寄り、美術館にとって「地域」と「つながる」ことの意味を再検討
 します。
  [講師]八木 剛氏(兵庫県立人と自然の博物館主任研究員)
      山重徹夫氏(中之条ビエンナーレ総合ディレクター)
  [議論におけるキーワード]
    #市民 #コミュニティ #まちづくり #若者 #連携 #企業 #学校 #ボランティア #NPO
    #付加価値 #ユニークベニュー #地域資源 #ポテンシャル #アートプロジェクト
    #芸術祭 #アーティスト #活性化 #PR #集客 #観光 #インバウンド 

6 美術館の社会的役割
  多様化する社会の中で、美術館が直面する課題も変化しつつあります。今回は社会の要請、設
 置者の期待、利用者の変化、そして館の使命という多面的な切り口から、課題解決に取り組む自
 然系博物館の先行事例と比較しつつ、美術館の社会的役割を考え、自館の課題を抽出、その課題
 との向き合い方を見直します。
  [講師]並木美砂子氏(帝京科学大学生命環境学部教授)
  [議論におけるキーワード]
    #ミッション #ヴィジョン #フォーラム #コレクション #生涯学習 #社会教育
    #博物館法 #望ましい基準 #原則と行動指針 #ユネスコ勧告 #公共性/公益性 #設置主体
    #他の館種との比較 #ユーザー目線 #社会変化 #AI/テクノロジー

全体講演:𠮷田憲司氏(国立民族学博物館長)
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