保存研究部会過去の活動

日時
2010年10月1日(金) ~2010年10月2日(土)
場所
森美術館
(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー)

第38回保存研究部会会合報告

日程

[1日目]
2010年10月1日(金)
13:20集合
13:30~15:30森美術館バックヤード、展示室視察
 ◆森美術館コンサヴァターの相澤さんの解説で展示室とバックヤードの見学が行われました。展示室では展覧会の概要をお話いただいたのち、空調機センサーの話となりました。特に森美術館では展覧会ごとにパーティションが変えられることが多く、建築時に埋め込まれた固定のセンサーでは最適な温湿度環境を確保できない。そこで、空調センサーをジョンソンコントロールズ、三菱マテリアルと共同開発し、小型で通信機能を装備したタイプのものに変更されたとのことでした。空調をコントロールするコンピュータ・ソフトや空調機械はそのままで、センサーと受信部を新たに加えることで改善されたその方法はたいへん勉強になりました。さらに、展示台のことに話題がのぼりました。ビル全体は制震構造になっているため、大きな地震の際はゆっくりと揺れ、船酔いのような感覚になるとのことで、展示作品が転倒する危険性は来館者が走って展示台に突っ込むような人的被害の可能性のほうがむしろ高く、気をつけているそうです。作品と展示台、そして展示台と床をそれぞれどのように固定するのか、それは作品の材質や形状、置かれた位置によって様々ですが、それをより良いかたちで工夫がこらされているのが実見できました。大量の土を使ったインスタレーションでのカビやバクテリアの対策も熱処理からエタノール噴霧に至るまで大がかりなものでした。アーティストが使用する素材を保存担当の立場から制限するのではなく、様々な知識と経験とネットワークを駆使して使用可能な方向へと解決されようとするその姿勢には見習うべきものがありました。

15:30~15:45休憩
15:45~17:15「コンディション・レポートとコンディション・チェックの意義について」
(吉備国際大学 大原秀之氏)
17:15~17:45質疑応答・全体討議
 ◆「私のドイツ時代」「ドイツの修復スタジオ」「コンディション・レポートについて」「展覧会コンサヴァター」「展覧会コンサヴァターを通して見たコンディション・レポートとコンディション・チェックの意義」という内容でお話いただきました。大原氏は約15年間もの長期にわたり、ドイツを中心に修復を勉強され、また現地で修復家として働き後進の指導にもあたられました。現代美術の修復家を目指されたようですが、事情があってガラス工芸品などの修復にも携わられたとのこと。現代美術作品修復の理念や修復の難しさ、そして様々な苦労談や国内外の事故の例などを赤裸々にお話いただいたことは、逆に私たちに気をつけるポイントをご教示くださったわけですのでたいへん有意義でした。展覧会の準備中に遭遇した事故でもっとも多いのは巡回展の最終会場だそうで、これは皆が慣れたと同時に気がゆるむことに起因していると述べられました。

18:30~情報交換会

[2日目]
2010年10月2日(土)
10:00~11:45「コンディション・レポートについて-今後の具体的な取り組み-」
 ◆2009年度に協議された事項を以下〔破線内〕のようにまとめ、おさらいしました。

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合意事項(おさらい)
■昨年度第1回会合時
  • 大きな流れとしては、さまざまな分野の人の知恵を借りながら、自分たちも勉強を重ねコンディション・レポートのひながた作成をめざしてみる。
  • コンディション・レポートのフォーマットは、ファシリティー・レポートの例と同様に、各館が必要に応じてカスタマイズできる内容を検討する。
  • 今回は貸借用のコンディション・レポートについて検討する。各館の収蔵品管理用コンディション・レポートは作成しない。
  • 作品拝借時の点検時間は有限であるので、効率よくチェックが行え、かつ見落としがないような記載項目を検討する。
  • 作品貸借時に、対象となる作品はどこがどのように傷んでいるのか、何を留意すべきかなど共通の認識ができれば事故やトラブルの原因が少なくなる。そのためには、「スレ」「かき傷」など、どのような用語が使われてきたのかを洗い出す。それぞれの美術館で、損傷例や、症例のサンプル画像に説明をつけて持ち寄る。(使用する語彙に相違があっても、チェックシートを記入する人と読む人で、状態に対する認識のずれがないようにする。)
  • コンディション・レポートには、梱包や輸送や展示の際に気をつけるべき点を記入する項目を入れる。その項目を出し合いまとめていく。
  • 事故、災害などの有事に、保険適用の際にもある程度[→出来うる限り]、対応できる内容も検討する。

■昨年度第2回会合時(第1回会合時との重複内容は省略)
  • 内容についての解説、手引きをつける。
  • 分類:平面と立体の区分けで、当初は立体について話し合ってゆく。
  • 誰がチェックをするのか? →借用側と貸す側、相互の理解
  • 途中の段階で、フォーマットをいくつかの症例と共に、HPにアップさせて反応を確認する。
  • チェック方法(手書きと共にデジカメ記録・高精細の記録など状況に応じ利用する)、記録の程度。

合意できていない事項
  • 絵画/彫刻/写真/紙作品/工芸・・・など分野別に作成するか、分野別だとするとどのような分け方にするか?
  • ID となる作品データの盛り込み度合いは[どの程度にするか]?
  • 外国語[対海外用]はどうするのか?
  • 貸借の相手による内容の違い → 美術館、個人などの違いを分けるか?
  • 履歴(修復履歴・借用履歴)[は含めるか?]

その他
  • メンテナンスを基本に考えた状態記録のケースもある。
  • 筆記用具は何を使うか? → 状況による、ケースbyケース

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◆さらに、たたき台として別添のコンディション・レポートを用意し、参考としながら協議しました。
意見や決定事項としましては、
  • コンディション・レポートの版型はA4サイズとする。裏面は空白。不都合がでれば変更。
    館によってはそれをA3に拡大するなどカスタマイズすれば良い。
  • ワードファイルでなくエクセルファイルでひな型を作成するほうが、他の作品データ流用との連携がとれて使いやすい。
  • 誤解を生まないように、貸す側、借りる側が双方に使いやすいレポート形式、用語統一され共通理解がはかれるように。
  • レポートをあまり細かいものとすると使ってもらえない可能性が高くなる。ポイントが絞れている方が良い。チェック項目は多すぎるとかえってポイントがわからなくなる。
  • 全体の見取(マップ)と細部(写真などを含む・マップには別紙参照と記入)という分け方をした方がよい。
  • コンディションのデータが簡易なチェックから入念なチェックまで複数ページに分散するよりは一目瞭然、そこを見ればあるデータがすべて網羅されているほうが見やすい。
  • カメラは必ず持っていくべき。
  • 用語は厳密には統一がとれない。その点でも借用場所で撮影する写真は有用。
  • 分類は大きく平面、立体としておき、たとえば平面であれば屏風や掛け軸、巻子など特殊なものはレポートのシートを差し込む。→堀さんに案の作成をお願いしました。
  • 担当の学芸員が借用に行くとは限らないので保険業者や輸送業者の連絡先の情報も入っていると良い。
  • 照度の条件も重要なポイント。
  • 「面マスキング」の言葉を→「ガラス保護テープ」に。またこれは重要なことなので、もう少し目立つかたちで。
  • 梱包箱の仕様、借りる側が貸す側へ質問する際のフォーマットもあればありがたい。
  • 紫外線ランプを持っていけば、ペイントがついたのか汚れなのかが判別できる(立体作品のとりまわしの際に付くことがある)。
  • 傷はルーペで観察。
  • アメリカが細かいコンディション・レポートを送ってくるが、作業上全部確認するのは無理。ヨーロッパはまだアバウト。
その他、東北芸術工科大学の藤原さんによります立体作品や重量物の、ためになるお話や、みなさんの貴重な経験話がありました。


11:45~12:30諸連絡・次回の研究会について

◆予算使途について、要望があれば事務幹事伊藤まで。
◆研究部会で購入した図書が、まだ一巡していない。一巡後どのように利用するかをつめる。
◆次回の第2回会合は青森県立美術館で開催予定。
12月の東北新幹線新青森駅開通以降から2月までの間で、会場提供?学芸員で企画幹事の 菅野さんのご都合もうかがいながら調整して決定する。

出席者 13名
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