保存研究部会過去の活動

日時
2009年11月27日(金) ~2009年11月28日(土)
場所
ブリヂストン美術館会議室(3F)

第36回保存研究部会会合報告

日程

[1日目]
2009年 11月 27日 (金)

13:30~14:00 集合、諸連絡
14:00~15:00 低反射フィルム リアルックについて そのしくみと基本性能
         吉岡健介氏(日油株式会社 機能フィルム事業部機能フィルム営業部)
         森川敬三氏(株式会社光陽)
         竹田三郎氏(旭水化成品株式会社)
         水落丈裕氏(油脂製品株式会社)

◆反射防止フィルムのリアルックについての説明と、ガラスへの貼り付け作業の実演がありました。リアルックのフィルムは額のガラスやアクリルに貼り合わせるだけでなく、ガラスケースや窓などにも施工例が多くあるとのことでした。
・リアルックは1998年から生産を開始した。用途のほとんどはテレビ画面の表面。2000年~透過光制御(色調補正)、2007年~機能フィルム事業発足。これまで4バージョン販売してきた。色味の違うのはそのせいで、初期のフィルムは紫がより強い。フィルムの幅は最大で1510mm、長さは2000m(20000000mm)。
・耐熱性 80℃×1000時間 耐湿性 60℃、90%RH×1000時間、展示室内であれば長期間劣化しないだろう。
・リアルックのフィルムは強酸、強アルカリに弱いので汚れをふき取る際はそれら以外の洗剤を使用すること。できれば中性洗剤やエタノール水溶液で。
リアルックにはUVカット機能(粘着剤に含まれる)、帯電防止機能(機能層にフッ素含有)、飛散防止機能がある。粘着層の成分はアクリル系
・アクリル板リアルックは工場(愛知県知多市)でフィルムを両面に貼り付け。フィルムを含めた厚みは3.3mm。幅の最大が900mm。最新の型番は「FN78UV」。
・展示ガラスや建物に貼る場合は、「7602UV」を使用。すでに別のフィルムが貼られていればそれを除去する必要がある。1平方メートルで30分程度かかる。
・既存のフィルム除去の場合は別途費用がかかる。
・片面施工では、両面への接着より効果が落ちる。両面施工は料金が2面分。


15:20~17:30  コンディション・レポート作成について(1) 全体協議
◆保存研究部会の今後の研究課題・共同作業として、コンディション・レポートの作成を検討しました。
「たたき台」をもとに、そもそも貸借の際のコンディション・レポートとはどういった役割を果たしているのか、部会で作成することができるのか、といった根本的な話し合いからはじまり、貸借時の借用側と貸出側の問題などさまざまな具体事例がコメントとして出されました。
ただし、大きな流れとしては、さまざまな分野の人の知恵を借りながら、自分たちも勉強を重ねコンディション・レポートの作成をめざしてみるということで合意ができました。今後の方針としましては、
・収蔵品管理としてのコンディション・レポートと貸借の際のコンディション・レポートの二通りが考えられるが、収蔵品管理については各館の状況にあわせた様式があるはずなので、今回は貸借用のコンディション・レポートについて検討する。
・作品拝借時の点検時間は有限であるので、効率よくチェックが行え、かつ見落としがないような記載項目を検討する。
・作品貸借時に、対象となる作品はどこがどのように傷んでいるのか、何を留意すべきかなど共通の認識ができれば事故やトラブルの原因が少なくなる。そのためには、「スレ」「かき傷」など、どのような用語が使われてきたのかを洗い出す。それぞれの美術館で、損傷例や、症例のサンプル画像に説明をつけて持ち寄る。(使用する語彙に相違があっても、チェックシートを記入する人と読む人で、状態に対する認識のずれがないようにする。)
・コンディション・レポートには、梱包や輸送や展示の際気をつけるべき点を記入する項目を入れる。その項目を出し合いまとめていく。
・コンディション・レポートのフォーマットは、ファシリティー・レポートの例と同様に、各館が必要に応じてカスタマイズできる内容を検討する。
・事故、災害などの有事に、保険適用の際にもある程度、対応できる内容も検討する。
といった流れですすむ予定となりました。

[2日目]
2009年 11月 28日(土)
9:30~10:00 今年度の予算執行状況、その他協議事項

10:00~11:20 「アートのリスクマネジメントと保険-Condition Reportの重要性-」
          箱守栄一氏(美術品リスク・コンサルタント、慶応義塾大学院)

以下はメモの要約です。
・保険の本命は相互扶助でリスクの分散が基本だが、美術品の保険は集積リスクの代表例で、保険会社としても経営としてやりにくい。火災保険などは一軒の火災確率が200年に1度で算定されているが、美術品は1回のまとまった事故や火災で一気に会社が傾く。
・価格評価も不透明。2万円の価値のものに100万円の保険をかけることも可能で、中国などでは詐欺まがいのことにあったこともある。美術館の仕事以外を引き受けるのはむずかしい。
・海外でも個人所蔵の作品を保険にかけるのはむずかしい。
・日本でも保険評価額、特に個人蔵はあいまいで、あとでつけるのはむずかしい。美術館側は2億つけたが所蔵者は5億という場合もある。過剰請求で何年も裁判がかかる。
・引き受ける料率の高低はリスクマネジメント、個々の作品のコンディション次第。こういう状況のものを保険で引き受けるという意味でもコンディション・レポートは重要。
・保険会社のリスクを分散させるために、高額な保険料となるものは、保険を他の会社や個人投資家に切り売りする。シンジケートの引き受け能力がひっ迫すれば保険料率が高くなる。
・皆でリスクを抑える努力をする。クーリエの搭乗は、アメリカでは絶対条件。
・盗難にあった場合の証拠としてもコンディション・レポートが必要。
・保険会社は公平な第三者の評価があってこそ支払いを公平にできる。
・コンディション・レポートがあれば支払いの際にも有利。
などなど大変貴重なお話をされました。

11:30~12:30  コンディション・レポート作成について(2) 全体協議
◆「コンディション・レポート作成について(1)」の議事録をご参照ください。
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