保存研究部会過去の活動

日時
2023年8月8日(火)
場所
川崎市市民ミュージアム 3階
会議室

第58回保存研究部会会合報告

内 容

 今回の部会合は、川崎市市民ミュージアム(以下、KCM)で開催しました。2019年10月の台風19号での被災以来、保存研究部会として学ぶべきところが多くあろうと、以前から開催館の一つとして検討していました。今秋の仮施設への移転準備のため、一時的にレスキューを中断する、との報を受け、移転前の多忙な時期に無理を言って開催させていただきました。通常開催とは内容を変更し、外部講師による講義は割愛し、会合(協議・連絡とバックヤードツアー)を1日間にまとめ、前後の日に全美のKCM被災収蔵品のレスキュー活動に任意参加しました。

8月8日(火)部会合
10:00~11:00 協議、連絡事項
○2024(令和6)年度以降の幹事体制について、
 前回部会合での協議の上、輪番制・2年交替
 (1年目事務幹事、2年目企画幹事)、東日本
 /西日本に分けた部会員名簿で各地域から2名
 幹事を選出し、全体として4人体制としまし
 た。近年、企画幹事を年度が明けてから決定し
 ていたため、部会合での予算計画立案時や部会
 員たちが出張予算を検討するにあたり、大変困
 っていました。そのため、少なくとも次年度の
 企画幹事を前年度に決定することを決め、今回
 も出来る限り、来年度以降の幹事について協議を行いました。2024(令和6)年度は、東日本
 の事務幹事が邊牟木(西美)、企画幹事が根本・盛本(岩手県美)、西日本は事務幹事が小川
 (国際美)、企画幹事が武藤(松本市美)となりました。
○前回の部会合時、賛助会員・個人会員から部会への入会希望がありました。初めてのケースのた
 め、慎重に協議を重ねています。今後、会合で配布した資料と今回出た意見をメーリングリスト
 で共有し、年末の幹事会で他部会の状況について聴き取りを行いながら、決定したいと考えてい
 ます。
11:15~12:45 館内視察
○企画幹事の貝塚建さんと羽生佳代さん及び文化
 財防災センター所属でKCMレスキュー活動に従
 事しておられる浜田拓志さんに、同館のバック
 ヤードツアーとレスキュー活動・作業内容につ
 いて案内していただきました。被災されたKCM
 を拝見するのは、部会員には今回が最後の機会
 となりました。
○館内各所に引越荷物が積み上げられる中、KCM
 職員、川崎市職員、外部支援団体、ボランティ
 アにより文化財レスキュー作業も同時並行で進
 んでいました。レスキュー活動場所の環境は、被災当初に比べると飛躍的に改善されており、場
 所によっては被災の事実を忘れてしまう程の好環境でした。しかしながら、中庭に設けられた冷
 凍・冷蔵コンテナや展示室内に建てられた大量の収蔵品を燻蒸するためのビニール被覆の様子、
 壁や床に被災時の水位がわかる痕やカビ痕が残る収蔵庫内を拝見した時には、被災の凄まじさ
 を思い起こさせました。
○貝塚さんからは、収蔵庫内での作品保管位置に
 ついて、「人間の心理として、奥により大切な
 ものをしまっておきがちですが、KCMのように
 収蔵庫内に大量の水が流れ込むような被災が起
 きた場合、散乱した収蔵品や床板の隆起によっ
 て動線が塞がれ、奥にアクセスしづらくなり、
 手前にある収蔵品を緊急搬出している間に、奥
 にある収蔵品の劣化が進んでしまうリスクがあ
 る」とお聞きし、収蔵庫の位置だけでなく、収
 蔵庫内でどのように作品を配置・保管していく
 べきかということを考えさせられました。
14:00~15:45 第37回学芸員研修会報告書作成打合せ
○2023年3月20日に国立西洋美術館講堂で開催された学芸員研修会(保存研究部会主催)の報告
 書作成に関する打合せを行いました。前回5月末開催の部会合後、9人の報告書作成メンバーで
 既に作業を開始しています。今回は、メンバー以外の部会員の意見も聞きつつ、講師プロフィー
 ル、注釈・挿図、添付資料、参加者名簿、奥付、発行冊数、今後の作業の進め方やスケジュール
 などを決定しました。今後もメンバーを中心として報告書作成作業を進め、年度内に報告書を発
 行する予定です。

8月7日(月)及び8月9日(水)10:00~16:00
有志による全美レスキュー活動への参加 
○現在、全美の参加するレスキュー活動では、水損し固着した紙資料の分離と情報記録及び洗浄を
 行っています。今回の活動参加でも、KCM保存修復担当であり保存研究部会員でもある貝塚 建
 さんと羽生佳代さん及びKCM職員(アルバイト)の寺岡洋子さんのご指導のもと、同様の作業
 をを行いました。
○レスキュー活動に2日間参加できたメンバーは、
 1日目は洗浄作業、2日目に分離・記録作業を行
 いました。1日間のみの参加メンバーは、主にど
 ちらか一方の作業を行い、各自1時間だけもう一
 方の作業を行いました。
○分離・記録作業は、紙の束を綴じているホチキ
 スの錆びたスチール製針を除去しながら、湿っ
 ていて重くなった脆弱な紙束を破れないように
 一枚ずつ分離し、行った作業を誰もが分かりや
 すいように記録していくという、とても神経を
 使う大変な作業でした。
○洗浄は、分離・記録作業よりも更に神経と体力
 を使う作業でした。紙資料を水に浸漬すると、
 過剰な水分による紙の急激な挙動変化が起こる
 ため、予防のために最初に霧吹きで湿りを両面
 に入れ、紙の動きが落ち着くのを待ちます。そ
 の後、バットにはった水道水に10~15浸漬しな
 がら、表面に点在した付着異物を軟毛筆で除去
 します。両面の清掃をした後、別のバットで1分
 間すすいでから資料を引き上げ、作品のおおか
 たの水気をPVA吸水スポンジで軽く押さえて除
 去します。その後、資料と資料番号の記入され
 たラベルを吸水紙と不織布、段ボール板ではさんで重ね、エアストリーム式乾燥の準備をするの
 が、一連の洗浄作業になります。作業中は気づかないのですが、数点作業する毎に交換するバッ
 ト内の水が薄黄色く変化しており、浸漬洗浄により紙に含まれていた汚染物質が洗い流されたこ
 とを改めて実感しました。複数個のバットが用意してあり、4~5名程のメンバーでこの洗浄を
 流れ作業で行います。確実かつ慎重な作業が求められると共に、次々に流れ作業を行うスピーデ
 ィさと、他メンバーとの連携が求められ、とても勉強になりました。
○分離・記録作業も洗浄作業も最初はおっかなびっくりでしたが、数をこなしていくうちに徐々に
 作業に慣れてきました。コロナ禍後、なかなかレスキュー活動に参加できていない部会員も多か
 ったのですが、今回の参加体験をもとに全美のKCM被災収蔵品のレスキュー活動継続の啓蒙を
 草の根で行うとともに、KCMの仮施設に移転後もそれぞれが時間を見つけて協力を継続しなが
 ら、いつか自館にも来るかもしれない災害に備えた準備もしていきたいと考えています。
(報告者:国立西洋美術館 邊牟木尚美)

出席者

部会員19名、事務局1名
(レスキュー活動参加者)
8月7日:部会員11名(9名参加、KCM職員兼部会員2名による指導)
8月9日:部会員11名(9名参加、KCM職員兼部会員2名による指導)



 
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