保存研究部会過去の活動

日時
2010年3月26日(金) ~2010年3月27日(土)
場所
岐阜県美術館 第一会議室

第37回保存研究部会会合報告

日程

[1日目]
2010年3月26日(金)

13:30~14:00  集合、諸連絡
14:00~14:40  窒素置換による低酸素濃度処理について
澤田佳久氏((株)環境システムI・R・C 代表取締役)
◆ 以前はブンガノンやDDVPなどを使用した経験があるが、べとつきや成分の危険性などに気づき、平成11年に空気環境調査、生物調査、真菌調査を行い、平成12年以降は、これらの調査を定期的に行い、IPMの考え方での管理に移行した。その後、調査結果を踏まえ、岐阜県美の作品に対する低酸素濃度処理のシステムにおける管理に焦点を絞り、イカリ消毒とともに思考錯誤を続け、(株)環境システムと共にシステムの改良を重ねてきた。(廣江)
(株)環境システム 澤田氏によるシステムの説明を、収蔵庫において機械を見ながら説明を伺った。
窒素害虫駆除システム:処理空間内に99.99%以上の調湿された窒素ガスを充填させ、空気中の酸素を排出し、酸素濃度を0.1%以下で最適な湿度に保持することにより、殺虫、殺卵をする。
保管しながら処置が行えるよう、台車ごと専用テント(ガスバリアフィルム)内で作業。
テントスペース1800×2700×2500mm
適正な湿度維持が最も難しい課題であった:窒素ガスを暖めながら、精製水を通し調湿。
殺虫、殺卵を目標とし、約1週間
コントロールボックス寸法:500(W)×300(D)×600(H)mm

15:00~16:30 美術館改修時の留意点について - 岐阜県美術館   廣江泰孝
◆ 開館27年を経て増改築計画を立てる必要があり、3か月という非常に短期間で仕様作成、発注、納品、確認を行う必要があった。
最低の費用、最短の期間での厳しい条件での執行。
現収蔵庫の機能強化。既存の収蔵庫内で使用する棚、増築部分で使用できる照明、彫刻免振台など。短期間内での納品のため、納期に間にあうよう、素材の変更など入札内容の変更も必要であった。
展示室、収蔵庫を案内していただきながら、購入あるいは増設した備品、設備などにつき、仕様や問題点など体験に基づいた話を伺った。

16:30~17:30 コンディション・レポートの作成について(1) 全体協議
◆ 今後、ワーキングとしてどのように「コンディション・レポートの作成」という課題に取り組んでゆくかを話し合い、計画的に進める。
時々、講師を招いて勉強会を開きながら、材料や扱いについて理解を深める
最終的にCWGとしてチェック表の雛型を作成するか?
雛型を示す、あるいは、参考としての雛型+内容についての解説,手引きをつける。
ID となる作品データの盛り込み度合いは?
分類:平面と立体の区分けで、当初は立体について話し合ってゆく。
   立体の場合、固定か、移動か、永久設置かによりチェック内容が変わる
損傷:用語の統一、損傷の認識につき、他館とのコンセンサスが必要
チェック方法(手書き・デジカメ記録・高精細の記録など)、記録の程度→短時間においての効率の良い記録方法
筆記用具 → 状況による、ケースbyケース
取り扱い、搬送、梱包などの注意事項 → チェック表に記録
貸借の相手による内容の違い → 美術館、個人などの違い
誰がチェックをするのか? →借用側と貸す側、相互の理解
履歴(修復履歴・借用履歴)
メンテナンスを基本に考えた状態記録のケースもある
CWG作成のフォーマットは、利用する館がカスタマイズして使用することを基本とする
外国語はどうするのか。
途中の段階で、フォーマットをいくつかの症例と共に、HPにアップさせて反応を確認する。

[2日目]
2010年3月27日(土)

9:30~10:00  今年度の予算執行状況に関する報告、他
10:00~11:30  「彫刻作品の取り扱い、日常管理における注意点について- ブロンズ」
黒川弘毅氏(武蔵野美術大学彫刻学科教授、(有)ブロンズスタジオ)
◆ 屋外設置彫刻(ブロンズ)の損傷について
屋外設置彫刻のブロンズの劣化要因には暴露経年があり、車の廃棄ガス、酸性雨などに起因することが多い。
S(硫黄),N(窒素),Cl(塩素)が劣化要因となる。
S,N,Clが雨、霧、結露などにより湿性沈着するものよりは、乾静沈着したものが結露により定着され、洗い流されない状況で、状痕の形成、腐蝕につながる。
腐食の60%が乾性沈着であり、硫酸、硝酸の粒が流れ、結露のたびに腐食する。
戦前から1940~50年ころ設置のブロンズに多く現れている。
◆ 着色には化学的着色と塗装があり、着色層が酸素、水から表面を保護する。日本の作品のほとんどが塗装。何もしないと20年ほどで、着色層が喪失する。腐蝕につながる。
おもに3色  (1)緑青色― 塩基性塩化銅(アタカマイト)、塩基性硝酸銅  可溶性
(2) ― 硫化銅              例<ロダン(2)+(1) >
(3) ― 硝酸鉄(焼き付け)、酸化第一銅   例<マイヨール(3)+(2)>
      黒や茶の顔料を混入させたワックスを上層に塗布の場合もある
◆ 予防 表面を酸素、水から保護する。
  1980~90年代前半にはインクラ(パラロイドB44)+防錆剤(ベンゾトリアゾール)が多く使用されていた。
 インクラ→ 相転移が70~80℃であり、ブロンズなどは屋外で80℃になることもあるので、インクラの層に亀裂が生じ、水を通す。
光沢が人工的なため、ケイ素を混ぜて調整するので、耐光性に劣る。
可逆性が低く、20~40μで塗布した場合、塩化メチレンなどでも不溶となる。
20μほどの薄い層は劣化が早い。
 ワックス→ 完璧な可逆性がある。
弾性膜で、傷などができても、屋外の温度で解けて自然修正される利点あり。水、酸素に対する防護力が高い。
耐光性は短い(1~2年)
2年目の夏に劣化の傾向あり。
 インクラの上から、ワックスを塗布の場合もあり。
◆ 保守作業
洗浄+ワックス塗布(撥水性の維持)
ワックスは2~3年で白くなるので、毎年の再塗布が望ましい。
◆ 損傷、保守作業などの説明後、黒川氏が調査、修復処置を行った屋外、屋内の彫刻を見学しながら、保存の問題点などについて具体的な説明を受けた。

11:30~12:30 コンディション・レポート(彫刻)の作成について
◆ ブロンズスタジオ作成のCondition report を見ながら、用語、確認事項などの説明。
<損傷例>
付着物:塗料、打撃痕など
変色:ワックス仕上げがUVで劣化。ワックスだけ補った場合、変色に見える。
汚れ
石質の生成跡(薬品の残留物が原因となることもある)
擦り傷
打撃痕
変形:自重変形(クリープ)の場合もある
亀裂:加重箇所の確認。接合箇所はストレスがかかり易いので要注意。
<後補としてのステンレス補強>
<屋外暴露経歴の有無>
<撥水性の記録写真。パティーナの消失(頭部に多い)
<固定器具>
テグス
木をさして固定
トップヘビーの場合:安定板、バラスト(砂・鉄板など)の使用

全体協議2
◆ 保存部会時の録音データの保存、取り扱いについて
不参加者に配布するか?音声情報だけでは理解しにくい点がある。
議事録を見た上で、希望があれば渡すことも可か?
ワーキング、勉強会に実際に参加する意義を考えることも重要。
発表は信頼関係の中で行われているので、内容が一人歩きすることの問題点が懸念される。
議事録、総会のための補助的資料と考え、1年の活動を目処に、年度が代わった時点で消去。
記録データは事務幹事が管理
記録や資料提供は発表者の合意の上、あるいは希望で行う。
議事録以外の情報提供は、発表者、発表者を委託した人の裁量に任せる
◆ 来年度の部会開催館、企画幹事の予定
◆ 次回の部会
  コンディションレポートについて
今回、彫刻について勉強した内容を踏まえ、彫刻、立体に関する話し合いの題材を準備してくる。
                                  以上



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