教育普及研究部会過去の活動

日時
2014年3月13日(木) ~2014年3月14日(金)
3月13日14:00~、3月14日10:00~
場所
兵庫県立美術館(13日)/兵庫県立人と自然の博物館(ひとはく)(14日)

第43回教育普及研究部会会合報告

 2013年度2回目の会合には「市民との協働」というテーマを掲げた。各館でボランティアの養成や活動支援にあたっている教育普及担当者は多いが、自主性を欠いた組織のフォローほど負担のかかる仕事はない。ボランティアの自主性を高めながら、その活動が美術館・博物館にとってもプラスになる関係/協力体制をどう築いてゆくかという問題は、担当者のみならず館の運営にかかわる大きな課題である。今回注目した、美術館・博物館の支援を目的に活動している市民団体がいずれも関西エリアに集中していたことから、関西での開催となった。
 1日目は兵庫県立美術館のレクチャールームを会場に、部会からの報告の後、「美術館にアートを贈る会」副理事の田中恒子氏、「なにわホネホネ団」団長の西澤真樹子氏からそれぞれの活動についてご紹介いただくとともに、活動グループを立ち上げたきっかけや理念、活動の目的、今後の展望等をお話しいただいた。2つの団体は美術作品と動物の骨格標本という違いはあるものの、博物館施設のコレクションの充実に寄与する点で共通している。いずれの団体も「社会に貢献しよう」と大目標を掲げて活動を始めたのではなく、個々人が「自分のやりたいこと(好きなこと)を実現したい/他と共有したい」という純粋な欲求に基づいて活動した結果、美術館・博物館の役に立っているのが実情との話であった。これは最も望ましいボランティアのあり方と思われるが、その状態を持続させるためには連携する相手とのコミュニケーションのとり方や意識の共有に工夫が必要である。その点に関しても数々の貴重な意見を聞くことができた。例えば「美術館にアートを贈る会」の活動では“どの作家の、どの作品を、どの美術館に贈るか”、選択やマッチングを誤れば互いにとって不幸な結果になりかねない。活動のスピードや自分たちの主張を通すことよりも、日頃から作家そして美術館の活動に注目して情報収集を行い、オープンな意見交換の場を設けて議論を重ね、関わるすべての人にwin-winの関係が成立することに重きを置いているという。発表者の言葉の端々からは、活動の対象となるもの(美術作品や作家、美術館/動物、ホネ、自然史博物館)に対する“愛”と呼んで差し支えないほどの真摯な思いが感じられ、それが彼らの活動を成り立たせていると確信した。

 2日目は三宮からバスで40分ほどの距離にある三田市の兵庫県立人と自然の博物館(以下、ひとはく)へ会場を移した。午前中は参加者を2グループに分け、交互に展示見学と簡単な化石のレプリカ制作体験を行った後、ひとはくの連携活動グループの一つrunるん
runるんplazaぷらざ♪の代表を務める清水文美氏の話を伺った。ボランティア参加の動機は、博物館へ要望を伝える為であり、最初は活動に意欲的ではなかったこと、ボランティア養成講座修了後に博物館から「これからの活動は自分たちで考える」ようにと伝えられ、戸惑いながらも自分たちに何ができるか考えてグループを設立し、研究員とのコミュニケーションを重ねながら少しずつ軌道に乗せていったエピソード等が紹介された。ボランティアの自主性がどのように芽吹き、育まれていったかを示す例として非常に興味深い話だった。現在、ひとはくの連携活動グループは23団体にのぼり、それぞれに研究員2名が顧問として関わっている。また東日本大震災後、清水氏が代表となり、専門性や地域の垣根を越えて取り組んでいる「こども☆ひかりプロジェクト」の発足経緯や活動についても説明があった。
昼食休憩の後、研究員の八木剛氏からは博物館の側から見た市民との連携の意義やマネジメントについてお話しいただいた。ひとはくが市民との連携を進める背景には、美術館と違って特別展を開催するスペースがなく立地的にも集客が難しい分、地域への貢献度を高めることで存在意義を示さなくてはならないという事情があるという。一方、研究員が専門分野の研究時間を確保している点では、恵まれた環境といえる。研究員が県立大学の教員を兼ねる事情から企業へのコンサルティング的な連携も多いが、館全体で市民と連携する意義への理解を深め、連携活動グループの自主的な活動を支援する中で新たな可能性や活動の幅の広がりを実感しており、今後は異分野の博物館施設との連携も積極的に進めていきたいとのことだった。

 今回お話を伺った方々は法人格を持たない任意団体や特定非営利活動法人(NPO)、県立博物館と所属や職制はバラバラだったが、それにこだわる人は1人もいなかった。それぞれの立場にできること/できないことを客観的に分析・認識しつつ、同じ対象に関心を持つ同士として協力し合い、その面白さや魅力を一緒に広めていこうとする意識を明確に持っていることが印象深かった。会合に参加した多くのメンバーは、所属館での日頃の活動を振り返り、ボランティアと職員との間でその意識が共有されているか自らに問い直したのではないだろうか。美術館・博物館をよりよくしていくために今後市民とともに何が出来るか、何をすべきかを冷静に見つめ直すきっかけとなったと思う。
(報告者:名古屋市美術館 清家三智)

出席者

会員21名
オブザーバー10名
事務局1名
Copyright © 2011 The Japanese Council of Art Museums All Rights Reserved.