情報・資料研究部会過去の活動一覧

日時
2009年11月10日(火) ~2009年11月11日(水)
場所
東京国立博物館(10日)、国立西洋美術館(11日)

セミナー「美術情報・資料の活用法―展覧会カタログからWebまで」

はじめに

 2009年11月10日-11日、情報・資料研究部会が担当して「美術情報・資料の活用法 ― 展覧会カタログからWeb まで」をテーマに企画セミナーを開催いたしました。第1日は東京国立博物館、第2日は国立西洋美術館と2日間・2会場で全6講にわたる構成とし、研究部会メンバーによる講師5名と受講者21名を迎えてのセミナー開催は当研究部会としても初めての試みとなりました。この報告では、本セミナー開催に至る経緯と開催趣旨、またこれまでの当研究部会の活動の歩みと今後の目標についてご紹介したいと思います。

1.情報・資料研究部会の歩み

 1993年に第1回会合をもって活動を始めた情報処理ワーキンググループは、その後10年間にわたる活動を経て、2004年度、「情報・資料研究部会」へと名称を改めました。以後、ホームページや作品データベースなど美術館活動を支える情報技術と、展覧会カタログをはじめとした様々な美術館刊行物などの資料について、著作権問題を含んで、美術館における情報コンテンツに関わる諸問題をテーマに活動を行っています。
 近年、美術館でのホームページの一層の普及と所蔵品データベースの公開が進むなど、美術館を取り巻く情報環境は大きく変化しています。当研究部会ではこうした変化に対応し、特に美術館・博物館のホームページを対象として、情報発信のあり方やコンテンツの内容についての調査研究を進めながらディスカッションを行ってまいりました。
 2004年7月には、部会メンバーにより、会員館のホームページにおけるデータベース公開の状況調査を行い、所蔵作品、所蔵図書、開催展覧会など各種美術館情報にとどまらないユニークな情報発信の事例などを確認することができました。
 2005年4月には、ドメインやプロバイダ、更新業務の担当や外注化の状況など、外からのホームページ閲覧だけでは汲み取れない情報発信の実情を把握することを目的として、ホームページの開設状況について会員館にアンケートを実施し、200館を超える館から回答を得ました。このアンケート実施により美術館を取り巻く情報発信のあり方について興味深い結果が得られました。

2.このたびの企画セミナー開催の経緯と趣旨について

 2005年に実施したホームページ開設状況アンケートはその時点における美術館の情報発信のあり方を伺う貴重な調査結果を見いだすことのできるものでした。しかしながらその調査結果をどのように美術館の現場に還元していくべきか、という点について、研究部会でディスカッションが行われ、その方策についてさまざまな取り組みのアイデアが検討されました。
 2009年3月23日に行われた研究部会でのディスカッションで、多くの美術館がその活動の中で継続的に行っている展覧会カタログの発行とその収蔵・活用という点について部会メンバーの中から問題提議がありました。
(1)一般に流通する書籍とは違う特徴を多く持ち、それ故に「灰色文献」とも呼ばれる展覧会カタログの問題について考えることは、美術館が行う情報発信を考察する上で有用ではないか。
(2)展覧会カタログが美術館やその他のライブラリーでどのように扱われているのか、書誌情報の流通のためのノウハウ、分類のためのノウハウ、展覧会の成り立ちとの関連性などについて研究可能な余地が多くあるのではないか。 という議論から、さまざまな美術館の活動の中でも、こうした美術館からの資料や情報の発信とその活用についての取り組みほど各館の独自の方法にゆだねられている分野はないのではないか、併せてこの分野における環境の違い、人や資金面での問題も大きな課題であることが指摘されました。同時にこの問題についてのアプローチは、継続的な研究と取り組みが重要ではないかとの指摘もあり、継続的に取り組む連続セミナーを開催する案が提案されました。
 そこで、このセミナーの第1回として、展覧会カタログに関する問題を第1講に2日間6コマで構成するセミナー開催プランの検討が始まりました。こうした連続セミナー開催の取り組みは研究部会としても初めての試みであることもあり、受講者からフィードバックを得て開催ごとにブラッシュアップしていくことを期待し、まずは第1回の開催結果を見ながら3年間計3回程度の開催を目指すことに決まりました。また、第1回は受講者とのやりとりができる人数として20名程度の参加を募ることとなりました。
 4月27日に開催された研究部会では、本セミナーへのニーズを探り、セミナー講義内容へのフィードバックを図るために、全国美術館会議会員館に向けて予備的アンケートを実施することも決まりました。このアンケートは資料室・美術図書室の有無や担当者の有無、また美術情報・資料についての課題などについて質問するもので、6月16日-8月21日の期間に実施し、37館から回答を得ました。このアンケートからは多くの館で資料室・美術図書室について学芸員や他の職員が兼務していることや、収蔵スペースや人員、資料の分類整理の仕方について困っている、または館独自の取り組みを行っている実態が伺える調査結果を得ました。
 最終的に本セミナー開催までの約7ヶ月半の間に合計6回の会合・研究部会を開催し、準備を重ねての開催となりました。幸いにも本セミナーへは募集定員を超える希望者の申込みをいただき、当日は21名の受講者の方を迎えて開催をすることができました。また、受講者全員から貴重なご意見をいただき、研究部会としても大いに得るところがあり、来年度セミナーの計画・開催に活かしていく所存です。

3.まとめ

 今回の企画セミナーでは、基本的な書誌情報の取り扱いから、美術館資料・情報の活用までを網羅的に組み込みました。本セミナーの開催が必要な情報へアクセスする方法を伝えるとともに各々の美術館がどのように資料を整理し情報を発信すればよいのかを考える一助となればと企画しましたが、本テーマについてはさらなる研究の深化と幅広い美術館の現場からの貴重なご意見が重要です。また、そうした貴重な経験についての情報交換や共有のためにこそ、全国美術館会議の情報・資料研究部会の場があるのではないかと考えております。今後も活発な研究活動への取り組みと活動成果を美術館の現場へ還元してい くことに向けて鋭意努力して参ります。

情報・資料研究部会 幹事 鴨木年泰(財団法人 東京富士美術館)

企画セミナー概要

テーマ: 美術情報・資料の活用法 ― 展覧会カタログからWeb まで
会 期・会 場:2009年11月10日(火)東京国立博物館―11日(水)国立西洋美術館
主 催: 全国美術館会議 情報・資料研究部会
内 容:
総 論 「美術情報・資料の活用法 ― 提供と利用のはざまにおいて」水谷長志(東京国立近代美術館)
第Ⅰ講 「展覧会カタログ」住広昭子(東京国立博物館)
第Ⅱ講 「美術館の逐次刊行物」中村節子(石橋財団ブリヂストン美術館)
第Ⅲ講 「今日の図書館から俯瞰する美術館の資料活動」水谷長志
第Ⅳ講 「電子的リソース(二次資料)」水谷長志
第Ⅴ講 「電子的リソース(一次資料)」川口雅子(国立西洋美術館)
第Ⅵ講 「作品情報のアクセスと発信」室屋泰三(国立新美術館)
セミナー第1日: 部会長挨拶 東京国立博物館 平成館 小講堂(撮影:鴨木 年泰)
セミナー第1日: 総 論 東京国立博物館 平成館 小講堂(撮影:鴨木 年泰)
セミナー第1日: 第I講 東京国立博物館 平成館 小講堂(撮影:鴨木 年泰)
企画セミナー レジュメ(PDF:2.9MB
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