全国美術館会議から全国の皆様へ

 新型コロナウィルスの蔓延は、美術の世界にも深刻な影響を及ぼし、世界各地の美術館の多くは休館に追い込まれる事態になりました。美術に限らず、多方面の文化領域に携わる人々は、まるで窒息させられているかのような状況に置かれています。ようやく少しずつ明るい方向に向かう兆しも見えてきましたが、まだまだ予断を許すわけにはいかないようです。
 こうした危機にあって、日本の多くの美術館もまた展覧会の中止、延期を余儀なくされてきたばかりではなく、教育活動や地域との連携などの社会的な役割を果たせずに苦慮してきました。美術作品の鑑賞と美術理解の機会を奪われている皆様と同様に、それを提供する場の閉鎖を余儀なくされてしまった美術館関係者もまた、切歯扼腕の思いでおりました。感染拡大防止のために様々な措置を施しながら各館は、それでもなお美術館は何のためにあるのかという課題を改めて見据えつつ、社会の逼塞に抗して少しでも貢献ができることをそれぞれの条件の下で工夫しはじめています。皆様が美術に接して楽しむ機会をもてるように、そして美術館の人間も本来の役割を果たせるように、展覧会を中心に活動の再開を探って、その第一歩を踏み出すところまで来たと思われます。地域によって差は出るにしても、間もなく各美術館は皆様をお迎えすることができると考えております。
 無数の人々の生命と生活を脅かす新型コロナウィルスの蔓延とその影響は、社会全体に深甚な傷痕を残しつつ、さまざまな視点から私たちに生きる意味の再考を促すことにもなるでしょう。その状況の中で、多彩な芸術領域、とりわけ美術は、新型コロナの残した傷跡を癒し、疲弊した社会に、またそこに生きる人々に、もう一度かけがえのない楽しみと喜びをもたらすと確信いたします。美術作品は、実物を通してこそ豊かな語りかけを絶やしません。私どもは、その語りかけを堪能していただくために、数々の展覧会、普及プログラムを通して美術への理解と楽しむ場を再び作りだそうと期し、生きることの意味を問い直すために、美術が、そして美術館は何ができるかについて、さらに思いを練っていかなければならないと銘じております。
 私ども美術館員は感染防止対策に全力を注ぐとともに、皆様と手を携えて危機を乗り越え、協力し合い、一日も早く社会全体が息を吹き返し、自由な活動の復活に向けて歩んでいきたいと願ってやみません。最後になりますが、いまもなお医療の第一線で献身的な働きをしている方々に心からの感謝の思いをお伝えするとともに、皆様とともに私どもも新型コロナの終息に向けて怠りなく努力いたします。しばらくは困難な状況が続きますが、何よりも皆様の健康を心より祈念いたしております。

  2020年5月16日
                                          全国美術館会議
Copyright © 2011 The Japanese Council of Art Museums All Rights Reserved.