地域美術研究部会過去の活動

日時
2022年6月3日(金)
場所
山梨県立美術館
講堂

第13回地域美術研究部会会合報告

 第13回会合(2022年6月3日開催)は約2年ぶりの対面開催となった。総会に合わせて山梨県立美術館を会場に、「山梨ゆかりの作家について」と題して、同館の太田智子氏、森川もなみ氏にご登壇いただき、日本美術、現代美術、近現代美術の分野から、山梨県ゆかりの作家研究と展覧会について発表いただいた。日本美術については同館平林彰氏にご準備をいただいていたが事情により、太田氏に平林氏の原稿代読をいただいた。ご多忙の中ご対応くださった三氏にこの場をお借りして心より御礼申し上げる。
 まず平林氏の発表(代読・太田氏)では収蔵資料の特徴や収蔵経緯、そして研究成果としての展覧会と、それらの縁で更に寄贈へと繋がった事例を紹介いただいた。まず野口小蘋について、戦前の遺墨展以降、行方不明だった作品や68点にのぼる印章など、野口家をはじめ県内外のコレクターや美術館への調査によって明らかとなった資料が2005年の展覧会で公開され、更に資料が同館収蔵となったことで、2017年の没後100年展では大規模な展示内容となった。次に近藤浩一路について、1979年に神奈川県立近代美術館と巡回で展覧会を行い、遺族から60点余りの寄託を受けた。
 2006年、練馬区立美術館と巡回で「近藤浩一路の全貌展」を開催。初期の洋画と水墨画だけでなく、漫画記者や挿絵画家としての活動や、周辺画家たちも含めた、幅広い活動内容と画風の傾向を紹介。遺族より寄託64点が全て寄贈されるという成果に結びついた。また、遺族が作家研究の成果を出された例として、穴山勝堂の遺族が勝堂の伝記を自費出版した例が紹介された。同書によって同館所蔵作品の出品歴と作品名が判明したとのこと。いずれの例も、担当者の丹念な調査研究の積み重ね、そして遺族や所蔵者との信頼と協力関係を作り上げられての大きな成果である。
 次に太田氏より、同館が山梨ゆかりの現代作家を紹介する取り組みとして、山梨県新人作家選抜展(1984~98)、郷土作家シリーズ(1988~2000)、そしてキュレーターズアイ(2002~)の企画を続けてこられたことが紹介され、近年の事例として「栗田浩一・須田悦弘展」(2020年度)について発表いただいた。同展の作家選定にあたっては、単に山梨県出身、ゆかりの作家というだけではなく、山梨という土地がどのように作品に還元され、あるいは作家や作品と繋がるのかというところでの二者の共通点などを検討されたとのこと。同展の準備期間はコロナ禍の始まりの頃で、人間社会が未知の小さなウイルスに翻弄される中で、コロナの時代における意味を考えたという。両者は同県笛吹市出身で、自然をテーマにしたインスタレーションを決まった手法で制作する点で共通している。栗田は自然の土を素材に、手を加えずありのままを作品としているが、その制作態度の原理には、丸石神(自然石を道祖神として祀る)といった山梨の伝統的習俗があるという。一方須田は本物と見紛うような精巧な木彫の草花を作る。実家の観光農園での記憶から、人間中心ではなく植物を主体として見ているという。両者とも自然の小さなものへ注視し充足を覚える姿勢が共通するのではないか、と締め括られた。
 最後に森川氏からは、発表時にはまだ準備中であった米倉壽仁展について発表された。1979年の展覧会を機に、代表作《ヨーロッパの危機》を含む約60件を寄贈、購入した。79年以降、充分な調査研究がなされていなかったことから新しい観点から紹介しようと、2022年、40年ぶりの企画展開催となった。前回の展覧会では触れられなかった画家グループ「サロン・ド・ジュワン」での活動、詩人としての活動、戦中の活動について調査をすすめるとのこと。また、米倉は晩年、文字を抽象化した作品に取り組んだそうだが、詩作が影響しているのか、同展でどのように紹介するか検討中とのことで、新たな米倉研究の成果が待たれる。
 質疑では、県内の画家たちの指導役についての質問では、中央で活躍した画家が郷里で美術を盛り上げようとしたとする回答があった。移住作家の活動に関する質問については、同館が2年計画で取り組む「山梨アートプロジェクト」の活動紹介もあり、活発な意見交換が行われた。 
(北九州市立美術館 重松知美)

出席者:17名(部会員8名、オブザーバー7名、発表者2名)

部会長:速水豊(三重県立美術館長)
幹事:増渕鏡子(福島県立美術館)
幹事:迫内祐司(小杉放菴記念日光美術館)
幹事:重松知美(北九州市立美術館)
工藤香澄(横須賀美術館)
菅谷富夫(大阪中之島美術館長)
西本匡伸(福岡県立美術館)
山梨俊夫(全国美術館会議事務局長)
オブザーバー:
濵﨑礼二(宮城県美術館)
佐藤芳哉(諸橋近代美術館)
貝塚 健(アーティゾン美術館)
平泉千枝(渋谷区立松濤美術館)
大谷省吾(東京国立近代美術館)
保坂健二朗(滋賀県立美術館長)
平林彰(山梨県立美術館)
発表者:
太田智子(山梨県立美術館)
森川もなみ(山梨県立美術館)
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