「今後の美術館の活動の発展のために」(全国美術館会議理事会から の声明文についてお知らせ)

今後の美術館の活動の発展のために

平成20年3月10日
全国美術館会議理事会


 現在わが国の美術館は、大きな環境の変化の中にあります。
 昭和50年代以降全国各地に地方公共団体による公立美術館の建設が続きました。また企業や個人が私立美術館を建設・運営する例も増え、わが国の美術館の約半数は財団法人立を中心とした私立館となっています。また、国立の施設についても、近年大型の施設が相次いで開館し、多くの来館者を集めるに至っています。
 他方、厳しい財政状況を反映して、国公立美術館においては作品購入や運営のための予算が抑えられるとともに、人員削減など一層の運営の効率化や自己収入の増加が求められてきています。
 また、私立美術館につきましても、これまで欧米先進国と比較すると免税措置や補助金交付など公益法人に対する法的・制度的な支援が脆弱な中、各館が自助努力による創意工夫をし、海外の美術関係者が日本の美術館を代表する施設と評価するものの中に複数の私立館があるまでになっていますが、昨今の景気停滞かつ低金利の経済状況の下では従来どおりの活動を行うことに限界が生じてきています。
 そして、そのような流れの中で、美術館の運営形態についても大きな変化が生じつつあります。
 公立美術館においては平成15年の地方自治法の改正によって「指定管理者制度」が導入され、これが各地で導入されるようになりました。また私立美術館については、平成20年12月に新しい公益法人制度が発足予定で、多くの私立美術館の運営主体である従来の公益法人については、今後5年の間にこの新たな制度への移行が求められていますが、その細部は現時点では明らかではなく不安があるのが現状です。更に国立美術館においても、昨年末に決定された独立行政法人の整理合理化計画の中で、平成21年度から展覧会の企画等を除く管理運営について民間競争入札を導入することが決まりました。
 また、目を海外に向けますと、中国などアジア地域における芸術創作活動は活発になりつつあり、そうした諸外国との文化交流も求められております。更に、近年の国際的なテロ活動の懸念から、海外の著名作品を日本に輸送することが次第に容易ではなくなってきている状況も指摘されるようになりました。
 このようにわが国の美術館は、大きな環境の変化の中にあり、それぞれの美術館は、そのような中で与えられた使命を十分果たしていくことが求められています。国公立の美術館は設立の趣旨に基づいた活動を展開することが求められており、私立美術館は独自の発想と視点で個性豊かな活動を展開し、優れた文化財や作品の保存や美術界の発展に今後とも貢献していくことが求められています。
 全国美術館会議は以上の認識のもと、美術館として与えられた使命を十分果たすため全力で諸課題に取り組むことを宣言するとともに、今般国会に提出された社会教育法等の一部を改正する法律案により博物館法の改正が行われようとしている状況での要望として、以下のとおり決議いたします。


1  私たちは、それぞれ美術館の設立の趣旨に従い、効率かつ適正な運営のもと、美術品の収集保存や鑑賞の機会の提供、教育普及活動に全力で取り組んでいくことを宣言する。

2  現在社会教育法等の一部を改正する法律案が国会に提出されているが、社会の変化等に対応した法改正を進められることは、全国美術館会議として大いに歓迎するところであり、今後とも美術館をめぐる諸課題の解決のために、国において法改正を含めた積極的な施策が講じられることを要望する。

3  学芸員は美術館の運営の中核であることに鑑み、その養成に当たっては美術館の特質に応じた知識・技能が十分習得されるよう、今後資格要件の検討に当たって国は美術館関係者と十分協議することを要望する。また、国、地方公共団体においては現職の学芸員のため十分な研修機会を提供するとともに、設置者においては学芸員の研修参加に格段の配慮をされることを要望する。

4  公立美術館においては、運営の効率化や自己収入の増加が求められているが、所蔵作品の充実と適正な保存、展覧会の開催や、教育普及活動等のサービスが十分確保されるよう、設置者である地方公共団体における必要な人員、予算の確保を要望する。また、地方独立行政法人による美術館の設置について、今後とも国において制度上の検討が継続されることを要望する。

5  新たな公益法人制度の下で今後従来どおり私立美術館が継続して活動できるよう、国及び地方公共団体においては、移行期間満了後においても従来から認められてきた固定資産税免税の継続は当然として、非課税範囲の拡大(欧米先進諸国の美術館では、事業収入は基本的に非課税である)を要望する。また、新制度における公益性の認定に当たっては、美術館が行う本来的な活動は、美術品の収集・展示や教育普及のみならず図録の編集・配布、所蔵品の貸借など全体が公益を目的とする活動であることを十分踏まえ、少なくとも現行制度において特定公益増進法人として寄付の非課税措置が適用されている法人については、新制度移行後も同様の措置が継承されることを要望する。

6  最近の保険料の高騰が、海外の優れた作品の借用や国内美術館間の作品の貸借に影響を与えている状況にかんがみ、早急に国家補償制度が実現されるよう国における検討を要望する。

7  優れた作品の美術館への寄託や公開の促進のための美術品登録制度の活用拡大のため、国における広報の充実や、登録要件の緩和の検討など積極的な施策が講じられることを要望する。

8  次代を担う青少年の豊かな感性を養う観点から、美術館を活用した鑑賞教育の充実に向け、国、地方公共団体や学校における積極的な取り組みを要望する。


以  上
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