日本版ファシリティーレポート(案)について(保存研究部会)

2008年 全国美術館会議保存研究部会(CWG)作成


1.作成の経緯と目的
2.使い方
3.留意事項(使用者の責任、提出者の責任)

1.作成の経緯と目的

 ファシリティ・レポート(Facility Report)という言葉は、AAM(アメリカ博物館協会)のものがこんにち広く使用されるなど、1990年代以降、日本の美術館博物館でも広く市民権を得てきている。なかには国内同士の貸借においてもAAMの仕様にもとづくファシリティ・レポートの提出を求められるケースもでてきた。我々自身、AAMの様式には好むと好まざるとに関わらず、必要に迫られてその内容理解を行ってきたわけだが、アメリカ基準で作られた設問が日本の実情にそぐわず、質問意図がよくわからないものに遭遇しながら、なんとか空欄をうめてきたという経験があるのではないだろうか。

 日本の実情に即した使い勝手のよいファシリティ・レポートがほしい、という声が保存研究部会(以下CWGと略す)内外から聞かれるようになり、検討課題として浮上したのは、1999年の第14回会合である。以後中断はあったが、第31回会合から集中的に検討を重ね、原案策定を行った。

 策定方法は、各館がすでに使用している貸借時の施設概要質問票をもちより、AAMのファシリティ・レポートの日本語訳を生かしながら、適宜質問項目の添削と追加補充を行った。ただし、そもそも全美加盟各館に共通する様式となりうるのか、という問題に関しては、各館の実情に応じて、質問項目を選択して行うなどのカスタマイズをしてもらうことが、「使い勝手」をよくするために欠かせないものと判断した。つまり、各館が独自に自館むきに選択改変してもらうことが重要で、すべての事項を漏らさず盛り込もうとは考えていない。
 さらに、このファシリティ・レポートが、貸借条件として超えなければならないハードルのように解釈される危険性についても議論があった。次項で述べるが、CWGとしては、会員館相互が、まず貸借を前提とした上で、よりよい相互理解のために使われるべきものとして、このファシリティ・レポートを位置づける。多岐にわたる質問項目を通じて、保存に関する注意を改めて喚起するとともに、問題点について、貸借する双方が、同じレベルで理解できる一助となることを願うものである。

2.使い方

 このレポートの特徴は下記の3点である。


  a.貸借その都度の確認事項
  b.質問項目選択式
  c.あくまで事前チェック項目(予定稿)であるということ


 a.貸借その都度の確認事項
 このレポートの最も注意すべき点は、「ファシリティ・レポート=施設概要報告」、つまり一度作成すれば長い間使えるものという認識をまず捨ててもらいたいということである。貸借を前提とした相互理解のためのレポートであるが、その貸借に関わる展覧会はその都度異なり、貸借作品がたとえ同一のものであっても、展覧会条件として同一ということはありえない。
 つまり、展示場所も、来館者数も、季節もちがえば、改めてチェックすべき項目が生じるはずである。まして貸借作品の材質が違えば、温湿度、照度などが異なる設定となることもしばしばであろう。
 「一般的な」レポートとして使うのでなく、個別の貸借を想定した、具体的なものとして活用してほしいと願うものである。したがって、すべての項目をまんべんなく埋めなければならないという煩雑さは、初回のみで、2回目以降は、選択された項目のみのレポート提出が可能という場合も出てくるだろう。
 b.質問項目選択式
 貸借を前提とした共通理解を得るためのレポートであるから、当該する作品、施設により質問項目をぐっと絞り込む必要があるだろう。該当しない質問項目は、お互いに時間のロスとなるからである。この形式をカスタマイズ (選択肢をしぼる、質問項目を加えるなど) して使用することから、それぞれの施設のフォームが生まれる。
c.事前チェック項目という性格
予定で記入するケースも多いと思うので、具体化したのちには、貸借時に通常行っていることであるが、レポートの変更点のチェックや個別的問題の確認を行うことが貸借双方に求められる。しかし、貸借条件を有利に運ぶため、最初から実現不可能なドリームプランを記入することは、相互の貸借信頼関係を大いに損なうものとして厳に慎んでもらいたい。このレポートが、正確な現状認識を双方で行ったのちに、どう歩み寄れるのかをともに考えていこうという視点に立っているからである。

3.留意事項(使用者の責任、提出者の責任)

このレポートは、貸出要請を受けた施設が、貸出希望施設の現状把握と損害保障の書類準備のためにのみ、使用することを原則とする。従ってその内容は機密事項として厳重に管理されねばならず、提出施設の承諾なしにコピーもしくは配布をおこなってはならない。必要があれば使用後はただちに返還されるべき性質ものである。
 このレポートの書式、質問項目は作成者に断ることなく、使用者がカスタマイズして使用できるものである。ただし、その使用にかかわる一切の責任は、使用者が負うものであることを認識して使用いただきたい。
提出施設はその内容について全責任を負うものであるから、虚偽、実現不可能な記述をしてはならない。万一信頼関係を著しく損なう記述があった場合には、貸借そのものばかりでなく、提出施設そのものの信頼性が根底から損なわれることを肝に銘じていただきたい。内容に関する疑問があれば、遠慮なく使用者に問い合わせを行い、相互理解をはかっていただきたいと願っている。
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