石巻市博物館の開館について

 この度11月3日に、石巻市博物館が開館いたします。
 同館は、2011年3月11日の東日本大震災による津波で所蔵作品に甚大な被害を受けた旧石巻文化センターの美術作品資料を受け継いで再生する博物館です。被災した美術作品の多くは、ご存じのように、全国美術館会議会員館や東北芸術工科大学が中心になって、被災当初から文化財レスキュー事業の一環として、修復作業を続けてまいりました。
 石巻市博物館の開館に伴って、お預かりしていた作品のほぼ全点の修復が一応完了し、10月初めに無事、同館に返還することが出来ました。それらの作品を含め、石巻市博物館では、11月3日(水)から令和4年2月27日(日)までの会期をもって開館記念企画展「文化財レスキュー 救出された美術作品の現在(いま)」展(特別協力:全国美術館会議)が開催されます。「救出された美術作品のコレクションを一堂に展示することで、石巻市博物館が継承したコレクションの特色を再認識し、その魅力を広く発信」する趣旨のもとで企画された同展覧会では、地域の作家として大切にされている高橋英吉とその娘の作品を始め、他に替えがたい美術作品が多く展示されます。
 また、会期中には、レスキュー事業を積極的に推進された元宮城県美術館副館長の三上満良氏、元東北芸術工科大学教授の藤原徹氏の講演も予定されています。
 石巻市の再出発は、救出と修復に携わってきた全国美術館会議の事業としても極めて重要ですが、何よりも、石巻市の懸命な努力によって、大震災から10年以上の時を経て再生を叶えた石巻市博物館の出発を祝いたいと思います。そして、大震災後も様々な自然災害に見舞われている現在、こうした事態は他人ごとではなく、美術館が常に対処を心がけていなければならないこととも考えられます。そのことを思い合わせれば、新しい博物館の開館を見届け、祝するために、会員館の皆さま、個人会員、賛助会員の皆さまに、ぜひとも同展覧会をご覧いただきたく、お知らせいたします。
 なお、詳しくは、石巻市のホームページに掲載されておりますので、ご一読ください。

 2021年10月
 
一般社団法人全国美術館会議 会長 建畠 晢

ごあいさつ

 全国美術館会議会員館の皆さま、東日本大震災により被災した石巻文化センターですが、震災から10年、このたび11月3日、石巻市博物館としてようやく開館に漕ぎつけることができました。これもひとえに、文化財レスキュー事業で文化センターの資料を救っていただいたおかげと、あらためて深く感謝申し上げます。
 振り返れば、文化センター2階部分は浸水の被害免れたものの、1階部分は壊滅状態、特に美術収蔵庫は扉が破られ瓦礫が流入し、甚大な被害となってしまいました。学芸員も自治体職員として震災関連業務に忙殺され、途方に暮れていたところに、迅速な対応をいただいたのが全国美術館会議の皆さまでした。阪神・淡路大震災の経験から大規模災害時の行動指針を定めていたと聞き及び、備えの重要性を痛感したのを覚えています。
 とはいえ、電気もない中、瓦礫をかき分けてのレスキュー作業は困難を極めたはずです。その後のクリーニングも気の遠くなるような作業の連続であったろうことは想像に難くありません。資料をお預かりいただいていた美術館に足を運んだ折、震災前よりもきれいになったのではと、目を疑う作品も多くありました。どのような手順でクリーニングし、どのような処置をすれば作品が安定するか。そして、どのように整理すれば返却後に使いやすくなるのか。よりよい保存と活用のあり方について考え抜かれた対応は感動的ですらありました。無事に帰ってきた美術作品を前に、あらためてレスキューに携わった全国美術館会議の皆さまに対しまして、心より敬意と感謝を申し上げます。
 石巻市博物館は、開館記念企画展として「文化財レスキュー 救出された美術作品の現在(いま)」を同時開催いたします。被災した文化センターで何が行われ、搬出後、どのようなプロセスを経て後世に継承しようとしているのかを、救出された美術作品とともに紹介する展覧会です。作品を守り伝えるとともに、作品に付与された「震災の記憶」や「文化財レスキューの記憶」を継承し、広く伝えていくことが当博物館の役割であり、それが皆さまへの恩返しになると信じ、活動してまいりたいと考えております。

  2021年11月3日

石巻市博物館 館長 千葉正喜
                            
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