教育普及研究部会過去の活動

日時
2015年3月14日(土) ~2015年3月15日(日)
3月14日14:00~、3月15日14:00~
場所
国立新美術館

第45回教育普及研究部会会合報告

 2014年度2回目の会合は、国立新美術館が主催する国際シンポジウム「アーティストとの関わりは私たちに何をもたらすのか」に協力・参加する形で行った。今回のシンポジウムにあたり国立新美術館はアメリカ・ニューヨークのホイットニー美術館から青少年・ファミリー向けプログラムのディレクター、ヘザー・マクソン氏を招聘しており、先方からの「日本の美術館の教育普及担当者と直接対話し、交流する機会を持ちたい」という強い希望に応じるため、彼女の来日に合わせた会合開催となった。
 1日目は各自の自己紹介と部会からの連絡事項の後、マクソン氏によるホイットニー美術館および教育普及活動の紹介を受け、質疑応答およびディスカッションを行った。マクソン氏から事前に日本の教育普及担当者への質問を預かり、参加者へはアンケート形式で回答を依頼し、当日のディスカッションもこれを基に展開した。質問は以下の6つ。

1)あなたの教育普及における哲学は何ですか?
2)あなたの教育普及における強みは何ですか?
3)業務の中での一番の挑戦・困難は何ですか?
4)学校とはどのように連携をとっていますか?
5)あなたのコミュニティで一番要求されていることは何ですか?
  美術館はその要求にどのように応えていますか?
6)美術はどのように人生に影響を与えると思いますか?

 いずれも根本的かつ重要な問いかけであるが、参加者から5つ目の問いに出てくる“コミュニティ”の捉え方がよく分からなかったとの意見が多くあったため、質問の意図を確認したところ「単なる美術館へのニーズということではなく、貧富の差や治安、暴力、移民、差別、雇用、高齢化社会、障害者との共生など、その地域社会が直面している問題とどう向き合い、美術館として何が出来るか、社会における美術館の役割について日本の美術館関係者がどう考えているかを聞きたかった」との答えが返ってきた。実際、ホイットニー美術館はこの5月のリニューアルオープンに伴い同じニューヨーク市内の別の地区へ移転することから、地域とのつながりを考えたプログラムを数多く企画・実践しているとの報告もあった。
日々、学校や大学等との連携を実践している日本の美術館は多いものの、広く社会の中で美術館が必要とされるための理論構築や取り組みの面では、まだまだ認識不足の部分が多く、マクソン氏のこの意見に戸惑いを覚えた参加者もあったと思う。社会問題の解決は政治や行政が行うべきで、美術館が取り組む必然性を疑う声も強くあるだろう。ただ、これまでの美術館の教育普及において所蔵作品の調査・研究の成果や美術史的価値の伝達が中心になりすぎていた側面はないだろうか。美術作品には作家の制作意図もさることながら制作された時代および社会背景がその評価に大きく関わるものも多い。作品をより多面的に捉え直しながら、地域住民と対話し、問題と向き合っていく方法を模索することも、これからの美術館の教育普及にとって必要な視点のひとつになり得ることを気づかされた。
 2日目は会合参加者全員で国立新美術館の講堂でシンポジウムを聴講した。マクソン氏と、部会メンバーでもある国立新美術館の吉澤菜摘アソシエイトフェロー、横浜美術館の端山聡子学芸員のほか、認定NPO法人芸術資源開発機構(ARDA)の並河恵美子氏、計4名による事例発表の後、パネルディスカッションと質疑応答が交わされた。
(報告者:名古屋市美術館 清家三智)

出席者

会員28名
オブザーバー18名
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