会長あいさつ

ごあいさつ

 新型コロナウィルス禍の先行きはまだ予断を許さない状況にありますが、一時期は休館を余儀なくされた全美の会員館の多くは感染防止策を取りつつ通常の活動を再開させています。総会も2年続けてリアルな開催を断念せざるをえなかったのですが、今年はホスト役を引き受けてくださった青柳正規館長をはじめとする山梨県立美術館の方々のご尽力で、去る6月2日と3日に実現に漕ぎつけることができました。  
 一昨年は書面での参加、昨年はZoomでの参加となんとか形だけは整えてきたとはいえ、やはりフェース・トゥー・フェースでない会議では旧交を温めるというわけにはいきません。117館、164人が出席した今回の総会は、長年の念願であった一般社団法人への移行後の初めての直接的な顔合わせの機会であったという点でも、格別の意味を持つものであったといえるでしょう。
 バブル経済の崩壊以来、美術館も財政難に直面しており、そこにコロナ禍が重なったので、会員館の減少が懸念されていたのですが、事実としては近年、館数は増加傾向にあり、今年も新たに6館が加わって総数406館を超えるにいたっています。法人格を取得したことと相俟って、全美は文字どおり日本の美術館界を代表する団体としての役割を担っているといっても過言ではありません。目下、その重責を支えるべく事務局の体制や諸規定の整備に取り組んでいるところです。
 正直にいって、今後の課題の一つは運営資金の確保にあります。長年据え置きになっている会費も検討の対象になりそうですが、各館が置かれている事情を考えると安直に値上げに頼るわけにはいきません。考えられる対策は、たとえば企業や関連業界に参加をお願いしている賛助会員の数を増やすことであって、そのために全美の公的使命を積極的にアピールし、また賛助額に応じたサービスの提供(優待パスなど)なども考慮する必要も出てくるでしょう。会員館の皆様の積極的なご協力をお願いする次第です。もちろん全美の活動の範囲は組織の体力に見合ったものにすべきであって、いたずらな拡大路線に走らないように留意してまいります。
 ところで、災い転じて福をなすという諺があるように、コロナ禍は美術館にとってオンラインによる展覧会やワークショップ、シンポジウム等、デジタルメディアに対するリテラシーを一挙に進展させる契機ともなりました。美術館の第一義的な使命が何よりもまずギャラリーに身を置いた作品鑑賞の体験にあることに変りはありませんが、デジタルの世界ではNFTやメタバースなど新たな領域も台頭してきており、今後、さまざまな局面でリアルな活動との接点が生まれてくる可能性もありそうです。
 総会でも報告されましたが、文化庁でいま進められている博物館法改正で、もっとも重要な問題である登録美術館制度がどうなるのか、また美術館などに課すアーティストの著作権の使用料について代行機関である日本美術家連盟が設けた基準が実際にどう運用されるのかなど、全美としても美術館を取り巻く環境の変化を注視し、適宜、情報をお伝えし、皆様のご意見を踏まえつつ対応していくつもりです。
 来年の総会は愛知県立美術館にホスト館をお願いしています。名古屋での再会を楽しみにしております。その日まで会員館の皆様もくれぐれも健康にはご留意ください。

  2022年8月18日

一般社団法人全国美術館会議 会長 建畠 晢(埼玉県立近代美術館長)
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